孤高の魚
………
ある晴れた日曜日。
僕は思い切って尚子を誘った。
野中七海と歩太の居場所を、「解体」するつもりだった。
「解体?」
尚子は不思議そうに首をかしげた。
「そう。
あの壁一面の歩太の軌跡を剥がして――」
「捨てる?」
「……埋葬する、と言った方が正しいかな」
『埋葬』
確かに、僕達にはそれが必要だった。
とは言え、この都会の真ん中で、公園などに紙屑を埋める訳にはいかない。
都会には都会なりの埋葬がある。
僕と尚子はごみ袋を持って、歩太の部屋へ入った。
すでに見慣れてしまった異様な光景が、僕達を迎え入れる。
「何度見てもすごいや。
ナナミちゃんの歩太への気持ちが、イヤってほど伝わってくる」
尚子は大きな溜め息を吐きながら、側にあった紙切れの一枚に手を掛ける。
「キレイな字……
そうとう、時間かかったわよね。これだけ書くのに」
それから一枚一枚丁寧に、壁から引き剥がして行く。