孤高の魚
野中七海が居なくなって、この光景を初めて目にした時、尚子はここで泣き崩れた。
床の上に丸まって、いつまでもいつまでも声を上げて泣いた。
野中七海が歩太を無くした悲しみなら、もしかしたら尚子が一番よく知っていたのかもしれない。
………
ペリリ……ペリ
指に微かな感触を残しながら、この部屋から剥がされて行く歩太の生きた軌跡。
僕も一枚一枚丁寧に、それらをゴミ袋へ放り込んで行く。
「……彼女はいつもこのノートを、大事にしていたからね」
野中七海が居場所にしていたブルーのノート。
『文字にして、ここに詰めるの』
そう言った時の、真っ直ぐな瞳。
それを思い出すと僕の涙腺は弛み、目頭に涙が滲んだ。
「……そうだね。歩太の事を聞くナナミちゃんは、いっつも真剣だった」
そう呟く尚子の声もまた、涙を堪えるために震えていた。