孤高の魚



………


暫くの間、静かに、静かに、この部屋の時間は停滞していった。
僕と尚子は無言のままで、お互いの内に秘めた野中七海と対峙する様に、彼女と歩太の居場所を解体する作業に集中していた。


半透明なゴミ袋が、少しずつ白と文字で埋まっていく。
これらは東京のゴミに紛れて、いつか焼却され煙と灰になる。


……それがこの『埋葬』に相応しいのかどうかは分からない。

けれども僕達はこの雑多な東京で出会い、生活をしてきた。
相応しいかどうかではなく、これが必然の結果なのだろう。


………


最後の一枚を剥がし、かつての色を取り戻した壁を、尚子と眺める。

歩太が残したフィルターの手紙も、尚子に見付からないようにこっそりと入れた。



「……あ」


僕は思わず声を上げ、部屋を出る。
キッチンを足早に横切り、冷蔵庫の前に立った。

そうして手を伸ばした先には……


あの、ブルーの手紙。


僕と野中七海を初めてここで繋いだ、華奢な文字が並ぶ便箋。

歩太宛のラブレター。



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