孤高の魚
僕がカウンターのいつもの席へ座ると、温かいお絞りと生ビールが、歩太によって自動的に運ばれて来た。
あれから、僕の生ビールがノンアルコールビールになる事はなかったし、時々はナッツのオマケまで付いてきたりした。
………
「お部屋は、みつかりましたか?」
ある時不意に、カウンターの中から、歩太が僕に問いかけてきた。
「……ふえ?」
僕は間抜けな返事でそれに答える。
何故なら僕は、部屋を探している事を、ここでは一言も話した事がなかったのだ。
「いえ、すみません。
鞄から、いつもアパートの間取りの……
ほら、今日も。はみ出してますよ」
歩太が笑う視線の先には、ポーターのショルダーのジッパーからはみ出した、不動産屋からもらったアパートの間取り図の三角形。
僕には、鞄をきちんと閉めない癖がある。
「……ああ。あっ、いや。
ははっ……まだ、見つからないんです。
高くって……」
僕の照れ笑いに、歩太も目を細める。
男の僕でもドキリとするような、恐ろしく綺麗な歩太の微笑み。
一瞬だけ、それに見とれてしまう。