孤高の魚
『孫が産まれるって言ったらね、うちの母親、めちゃめちゃ張り切ってて。
うまくやれるかわかんないけど、一緒に暮らす事にしたんだ。
娘と孫って、違うのかな。
七花のことは、すっごく大事にしてくれる』
いつか尚子は、そう僕に話してくれた。
『まだぎこちない家族だけどね。
あたしも母親になるんだから。
この子のために、一歩踏み出さないとって思ってる。
許すとか許さないじゃなくてさ、家族なんだから。
あたしも、母親とちゃんと向き合おうかなって』
………
それでもほとんど毎日、尚子は赤ん坊を連れてこのアパートを訪れて来る。
それは、野中七海を失った僕に対する、尚子なりの慰めなのかもしれない。
現に僕は、七花の顔を見ていると、ほっこりと温かい気持ちになれる。
そうして僕は、大学3年生になり、もうすぐ4年生になる。
相変わらず「さくら」では、ボーイとして働いていた。
時々工藤さんとも食事をし、変わらない日常を送っている。
変わった事と言えば、このアパートの家賃を、かつての倍払っているという事くらいだろうか。