孤高の魚



野中七海と歩太の部屋は、まだひっそりと静けさを保っている。


あの『埋葬』の後、僕達は野中七海と歩太の部屋を整理した。

整理とは言っても、そこには雑多な荷物など何一つなかった。

クローゼットもチェストも、きちんと整理され、半分以上が空の状態だった。
残されていたのは、僅かな衣類と必要最小限の雑貨だけで、すぐにでも誰か他の人が住める様な状態だった。


野中七海はもしかしたら、最初から、この部屋に戻るつもりなどなかったのかもしれない。


歩太が愛着していたシャツが数枚あったので、それは尚子が持ち帰った。
七花の父親の、形見にするのだそうだ。


野中七海が残した数枚のワンピースは、そのままクローゼットに掛けてある。
それだけが唯一、あの部屋に彼女の気配を漂わせていた。


それからキッチンには、使い方のわからないコーヒーメーカーが残された。

彼女が愛用していたボーンチャイナのカップも。
歩太のマグカップも。



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