孤高の魚


あんなに飲み続けているにもかかわらず、歩太は決して酔わなかった。
僕もお酒はかなり強い方だけれど、さすがに少し、酔っている。

歩太には、かなわないと思った。
歩太もまだあの頃は、二十歳になったばかりだったけれど。


……


歩太は冷静に、きちんと視線を定めながら、僕にこのアパートに住むための条件を一つ一つ挙げていった。


「電気や水道を無駄にしない事」

「キッチンは綺麗に保つ事」

「専用の冷蔵庫を用意する事」

「食事中は煙草を吸わない事」

「お互いの部屋には無断で入らない事」


……


そういった一般常識的な事を加え、その中でも絶対条件は

「お互いを、決して干渉し合わない事」

だった。


幸い僕には、どれもが簡単に守れそうな条件だった。


「無関心」

それがその頃からの僕の周囲の定評だったし、大学の授業が始まってしまえば、必然的に忙しくもなり、歩太を一々干渉するヒマなどはないだろう。

僕はいつも自分の事だけで、だいたいが精一杯なのだ。


< 53 / 498 >

この作品をシェア

pagetop