孤高の魚
歩太が居なくなった時も、僕は2週間くらいはそれに気がつかなかった。
何となくアパートの中は静かなような気がするし、次々に訪れる来客は、歩太の不在を不満げにして帰って行った。
……
『今日もいないのお?』
女の子達がそう言って顔を歪める度に、
『そういえば、最近、歩太を見かけないな』
僕はそう、ぼんやりと呟くだけだったのだ。
………
けれども歩太は確かに、いつもそうやって、どこかフワフワした、掴み所のないヤツだった。
ここから居なくなっても、僕にはどこか当然の事の様に思えたし、そしてまたいつか、知らぬ間にフラリと、当然のように帰って来るような気もしていた。
僕には、歩太が居なくなる理由はないようにも思えたし、同時に、歩太がここにいる理由もないように思えた。
……
ただ、言える事は。
歩太は何もかもを置いて、ここから旅に出て行ってしまった。
その旅が、長いのか短いのかは…
歩太にしかわからない。
……
もしかしたら、歩太本人にだって、わからないのかもしれないのだ。