孤高の魚
彼女は、ピンク色の小さな唇に、笑顔の上に驚きを隠したまま固まってしまっていた。
黒い髪が顎のラインでサラサラと揺れ、恐ろしく白い肌には真っ黒な瞳が、ユラユラと輝いて僕を見ている。
僕は、彼女の顔をスライド式に、僕の知っている数少ない女の子の顔と照らし合わせてみた。
どれもこれも。
……この彼女の美しい顔とは、少しも合致しない。
………
「……あっ……ま、間違えました……」
その美しい顔の持ち主は、何とも言えない表情のまま、僕の顔を呆気にとられて眺め、小さく呟いた。
その呟きのか細い声は、僕の耳にやっと届いて、そうしてすぐに、余韻もなく消えてしまった。
「……あ、……はい。す、すいません」
何故か僕もそう言って謝ってから、小さく頭を下げる。
………
彼女も、それに顔を伏せて応えた。
彼女の視線が弱々しく、コンクリートの廊下に漂う。