孤高の魚
せっかく、早くに目を覚ましたので、僕はキッチンでインスタントコーヒーを入れた。
最近の僕は、よくコーヒーを飲む。
そうして頻繁に、歩太を思い出すようになった。
酸味の強いコーヒーの匂いと、僅かに苦いタバコの香り。
そこから僕は、いつも歩太を連想せずにはいられない。
ダイニングに背をもたれ、溜め息をつき顔を上げると、冷蔵庫に貼り付けてある、例の手紙が目に入る。
……
さっきの、美しい彼女。
……突然の訪問者。
目を瞑れば不思議と、彼女のあどけない表情が、すぐにでも思い出せそうだ。
………
野中七海。
頭の中でそう呟いてから、
「いい響きだ」
と思う。
さっきの彼女が誰であれ、やっぱり僕はいつか、野中七海に会う事ができるだろう。
ここにいて、歩太の帰りを待っている限りは。
………
そんな確信を抱きながら、僕はしばらくの間、あの手紙の美しいブルーを、じっと眺めていた。
こうしてまだ会えない野中七海の事を、僕は何度考えた事だろう。