孤高の魚
その日の夜。
僕は大学の授業を終え、一旦部屋へ戻ると、早めに「さくら」へと出勤した。
僕が店に入ると、チーママの小百合さんはとっくに出勤していて、一通りの開店作業を済ませてから、立ったままタバコを一服していた。
「おはよう、歩夢くん」
そう言って僕に笑いかける小百合さんは、年の割にすごく若くて、黒のパンツスーツがよく似合う。
長くて細めのメンソールの煙草は、小百合さんのためにあるかのように、小百合さんにピッタリとくる。
長くて緩いウェーブの髪を、後ろでラフに束ねていて、それがまた何とも色っぽい。
とても二人の子持ちには見えない、妖艶な笑顔だ。
「あっ、おはようございます」
僕はそう小百合さんに挨拶をし、僅か一畳ほどの控え室で、白いカッターシャツに黒いパンツ姿に着替える。
小百合さんがいつかプレゼントしてくれたネクタイを結び、ママが買い揃えてくれた黒い革靴に履き替える。