孤高の魚
出会い
「じゃあ、歩夢くん。あとお願いね。
あたし、ママ迎えに行ってくるから」
カウンターの端に座った彼女と僕を置いて、小百合さんはそれからすぐに、そう言って店を出て行ってしまった。
………バタン
小百合さんが閉めたドアの音を残して、後にはしばらく、沈黙が流れる。
その沈黙が重くて、まだいつもよりは早いけれど、僕は有線のスイッチを入れた。
スピーカーからこぼれる緩やかなピアノジャズが、二人の間を何とか取り持っていた。
………
「あの……」
そんな沈黙の中、最初に口を開いたのは彼女の方だった。
「はい」
僕は彼女の方に向き直り、意識的にできるだけ落ち着いた口調で答える。
油断すれば、緊張でなんだか声が裏返ってしまいそうだった。
彼女の表情はさっきよりは幾分落ち着いていて、上気してピンク色だった頬は、徐々にかつての白を取り戻している。
「突然来たりして、ごめんなさい。
……あと、今朝もごめんなさい」