孤高の魚


「えっ? みなさん、兄をご存知なんですか? はい、兄の名前は歩太です」


僕の代わりに野中七海がそれに答えた。
彼女の顔はさっきよりも輝いて、嬉しそうに上気している。


………


僕だけが一人、腑に落ちないまま黙ってコーヒーを啜っていた。


歩太の部屋へ来る?
僕と歩太のあのアパートへ?

それならそうと、先に僕に相談するのが筋ではないか。


………


「まあ! そうなの! 歩太くんの妹さんなのね!」


そう言って驚くママも、歩太の魅力に取り込まれていた人の一人だった。
そもそも僕がこの仕事にありつけたのも、元々はママがCOMの常連だったからなのだ。


「歩太くんね、ここにも何度か来てくれたのよ。へえーー、妹さんがいたのね、知らなかったわ」


そう言って笑う小百合さんも、どこか嬉しそうだ。


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