孤高の魚
そうして部屋のドアの前まで来ると、鍵を開けようとしている僕の後ろで彼女はわざとらしい深呼吸を3回した。
「フゥ……ああ、今朝とはまた違うドキドキだわ。今朝はね、まだ半信半疑だったから。……やっぱりここは、わたし達の部屋なのね」
………
ガッチャン
僕がドアを開けると同時に、彼女は部屋へと飛び出した。
玄関に靴を投げ捨てるように脱ぎ、パタパタパタと廊下を走る。
「……慌てすぎだよ」
そんな僕の声ももはや、彼女には届かない。
………
僕がキッチンに入りダイニングテーブルの上に彼女の荷物を置き、煙草に火を付ける頃には、彼女はもうキッチンと歩太の部屋、お風呂場、トイレを一周し、ぼんやりとキッチンに佇んでいた。
「……懐かしい。変わっているけど、変わっていないわね」