孤高の魚
「……これ」
「違うんだ、その……間違えて、開けてしまって」
僕は慌てて何か言い訳を考える。
「読んでくれたの?」
「……え?」
意外な野中七海の言葉に、僕は思わず声を上げる。
「この手紙、歩夢さんが読んでくれたの?」
「いや、あの、間違えて……」
「……ありがと」
「え?」
「読んでくれて、ありがと。……歩夢さんに読んでもらえて、この手紙も、きっと救われてる」
「……」
「そうして、七海も少し、救われる」
そう言ってから彼女は小さく「ウフフ」と笑った。
「だって、アユは、ここにはいないんだもの」
………
僕は、どんな言葉を用意すればいいかわからなかったし、彼女の笑顔の、少し下がった眉毛あたりから滲む悲しさを、感じないわけにはいかなかった。
僕はただ不器用な笑顔を浮かべて、無言のまま煙草に口をつける。