孤高の魚
僕はそのブルーの手紙を、冷蔵庫の扉にマグネットで貼り付ける。
そこには、半年分の歩太宛ての封書やハガキが、数枚貼り付けてある。
その中で、その新入りの淡いブルーの封筒は、一際美しく、何か特別なもののように見えた。
………
野中七海。
かつてこの部屋に押し掛けていた、歩太の彼女の内の一人だろうか?
歩太がここから行方を眩ましている事を、まだ知らないのだろうか?
同居人である僕が、歩太の姿をこのアパートに見なくなってからもう、半年が経つというのに。
けれども、僕が歩太と一緒に暮らした約二年の間、その名前を歩太の口から一度も聞いた事がない。
とはいえ。
それどころか僕は、歩太の事を何一つ知らなかったのだから、当然と言えば、当然なのかもしれないけれど。
現に僕は、歩太がいなくなっても、歩太の行方を探す場所すらどこも思い当たらなかった。
ただこうして、僕はこの部屋でずっと、歩太を待つでもなく暮らしている。