孤高の魚
「おはよう、アユニ」
ウッドビーズの暖簾をくぐりキッチンを覗くと、コーヒーをカップに注ぎながら野中七海がニッコリと僕に微笑む。
スッキリとした、彼女の爽やかな笑顔。
……やはり、これこそが夢なのではないだろうか、と僕は疑った。
「どうしたの、アユニ。まだ寝惚けてるの? 早く、座って」
ぼんやりして立ったままの僕を、彼女が嬉しそうに急かす。
「あ……あ、うん」
……正直に言って、僕はこういうのに慣れていない。
僕の母は忙しい人で、朝から仕事でいつも居なかった。
母親にでさえ、僕はこんな朝を提供してもらった事がないのだ。
テーブルの上にはバタートーストが二枚とハムエッグ。
それに、濃いめのブラックコーヒーが、きちんと僕専用のカップに注がれて置いてある。