孤高の魚
「それ、アユニのカップでしょう? オリーブグリーンの幾何学模様。なんかすごくアユニっぽい。アユなら、きっとブルーを選ぶもの」
そう言って野中七海は満足そうに笑った。
「……あれ? 君は? それだけ?」
気がつけば彼女の目の前のテーブルには、ミニトマトが2つだけ載ったガラスの器と、客人用に歩太が用意していたボーンチャイナのカップがあるだけだった。
「君、じゃなくてナナミ」
彼女はそれには答えずに、ミニトマトを頬張りながら言う。
「……ああ」
「ああ、じゃなくて、ナナミ」
ナナミ。
七海。
……やはり僕の中では彼女は野中七海であって、ナナミ、ではないような気がした。
けれども僕は黙って、トーストをかじる。
トーストの焼き具合も、とてもいい。