母子受難のレビュー一覧
野いちごで久々にこう、よだつような作品を読めました。 11ページをさらっと流せるかと思えば、最後は踏み潰されましたね、見事に。
非常に高い文章力で描かれた物語。 ぐいぐい読んでしまいました。 温かい話しでは、ないけどリアルで何故か惹かれます。
そんな短編。 読み終わった後に、分厚い小説を読み終えたかのような充足のため息が漏れました。 ラストは薄々予想できたのですが、その最後の1頁、最後の一文に読者の共感(あるいは、自分が「私」になったような感覚)を誘うために必要な言葉がすべて、前の10頁に仕込まれているのです。 素晴らしい筆力が秘められた作品だと思いました。 敢えて言うならば、 実話かと思えるほどに人物像や世界が作り込まれており、 この数十年に渡る家族の物語を短編にとどめてしまうのは勿体ない気がしました。 本来は長編作品に値する世界をダイジェストで見ているような、そんな感覚といったらいいでしょうか。 良質な作品に出会えた「充足」と、 もっと読んでいたかったという「渇望」。 両方味わえる作品です。 秋の夜長に、ゆっくりお読みください。
たった11ページの作品なのに非常に膨大な意味を持つ人間ドラマが隠れている。 何だか小説の始まり数ページを読んでいるかのようなそんな文学的な作品です。 野いちごではまず見ない作風です。 野いちごの王道な恋愛物に慣れすぎて飽きてしまった人に読んで欲しいですね。
産み、育ててくれた『母』という存在は、その過程がどれだけ残酷でも非道でも、『母』という揺るがぬ存在であり続けるのだろうか。 どれだけ疎んじても、憎んでも、体に、魂にべったりとしみ込んだ存在は、嫌いにはなれても、忘れることも、無関心になることもできないのではないか、と私は思う。 『母子』という関係性について考えさせられた良作でした。 できれば、兄の視点からも読んでみたかったと思います。 良い作品に出会えてうれしいです。ありがとうございました。