シュガー&スパイス
「千秋はもう飲まないの?」
ビールを1杯。
カクテルを2杯。
そこで千秋は飲むのをやめてしまった。
あとはお皿の上に綺麗に並んだフルーツをつまみながら、あたしの話に黙って付き合ってくれている。
「俺はいい。 明日も仕事だし」
「えー、つまんなーい! 千秋から誘ったのにぃ」
ムーっと頬を膨らませながら、千秋が手に持っていたパイナップルを奪う。
それをポンと口にいれた。
その瞬間、ほどよい酸味が口の中に広がる。
「……ったく。子供みてぇ」
横目であたしを眺めながら、ため息まじりにそんなセリフが聞こえた。
「なに?」
「……別に」
頬杖をついたまま、グラスに手を伸ばす千秋の横顔を見上げた。
「…………」
オレンジのライトに照らされて、真っ黒な千秋の髪もオレンジ色に染まっていた。
カウンターの中にいるバーテンダーの姿を目で追うその瞳が、たくさん並んだワインを反射させて、キラキラ光って見えた。
長いまつ毛。
ふーーん。キレイな顔してるんだ……。
頬づえをついてるその腕は、筋が通っていて、細く見えてもちゃんと男の人だ。
ぼんやり眺めているあたしに気がついた千秋が、「何?」って片眉を持ち上げた。
「なんでもない」と頬を緩めて、そっと手元に視線を落とす。
天井からつるされたライトが、きれいに磨かれたカウンターに反射してる。
それはまるで、万華鏡みたいに輝いて見えた。