シュガー&スパイス
これって……いわゆる痴漢ってやつ?
でも、この人ごみだからあたしの勘違いって事もありうる。
そう思いながら我慢して、2ヶ月。
気がつくといつも後ろは50歳代の、さえないサラリーマン。
あたしが見上げると、いつもそそくさと視線を逸らす、いかにも怪しいヤツだ。
今度は言ってやろう。
今度こそ言ってやろう。
って思いながら、そのチャンスを逃していた。
電車の揺れに合わせて、時々触れる何か。
「……ッ」
我慢も限界に達し、キッと見上げたその瞬間。
電車は甲高いブレーキ音を上げて駅に滑り込んだ。
その光景に気を取られていると、扉が開き、その男も波のように流れて行ってしまう。
……これも、いつものことだ。
くっそー。
覚えてろ!
絶対、明日こそ。
あたしは鞄を肩にかけなおすと、「はあ」と溜息をついた。