シュガー&スパイス
駅を出ると、大きなロータリーが目の前に現れた。
噴水やベンチもあり、おしゃれなお店が立ち並ぶこの駅は、いつもたくさんの人で賑わっていた。
月曜日の今日も、仕事に行く人だけでなく。
朝から買い物にでも来たのか、それとも朝帰りなのか。
やたらオシャレをした人も多くすれ違った。
あ、……いた!
その中に見覚えのある姿を見つけ、あたしは思わず笑顔になる。
飴色のアンティークのベンチが彼の指定席。
腰を落として、手に持っている手帳らしき物に視線を落としている5つ年上のあたしの彼。
真っ黒な髪をしっとりとワックスでセットして。
タイトなスーツを着こなして、長い足をクロスさせている。
「英司!」
嬉しくって、思わず大きな声で呼んでしまう。
手元の手帳から顔を上げて、切れ長の瞳であたしをとらえた英司はパタンと手帳を閉じて、スーツの胸元へそれをしまった。
「菜帆、おはよう」
そう言って目じりを下げて笑う英司。
薄い唇を持ち上げると、すぐにキレイな歯が見えた。
はああ……
なんてカッコいいんだろう。
「……おッ、おはよう」
その瞬間、性懲りもなく思い出した。
プロポーズ。