シュガー&スパイス
今度こそ大混乱。
顔面蒼白。
ピシャリと固まった足は、前に進んでくれない。
そんなあたしを通り越して、先に英司が乗り込んだ。
ボタンを押して、あたしが来るのを待っている。
い、行ってくれて、いいんですけど……。
「乗らないの?」
「…………乗ります」
普段通りに話しかけてくる英司に、拍子抜け。
英司にとっては、あたしなんかその程度だったのかな……。
「何階?」
「……あ、27階を」
低くて、スッと耳になじむ声色に、懐かしさを覚えた。
シンと静まる、狭い密室。
足元を睨んでいた視線をそっと上げて、英司の背中を見上げた。
今日もしっかりと決め込んでるスーツ。
でも、真新しいストライプ柄のそのスーツに見覚えがない。
甘い香水の香り。
それから、煙草のほろ苦い香り。
そこにいるのは英司なのに、あたしの知ってる英司じゃない。
置いてけぼりにされたような、そんな虚無感。
ぼんやりとそこから視線をそらして、高速で下降する景色を眺めた。
「――――久しぶり、だな」
その声に我に返り、あたしは慌てて顔を上げた。