シュガー&スパイス
「ずっと前から用意してあったんだ。 ……もらって欲しい。あとは捨てても構わないから」
「え?……で、でも……」
――なんで?
混乱したまま、エレベーターが止まる。
受け取れなくて固まっていたあたしに、英司の手が強引に触れた。
「ちょっと早いけど、24歳おめでとう」
あたしだけに聞こえるようにそう言って。
英司はひとりさっさとエレベーターを降りて行ってしまった。
……え、え?
ポカンと固まってしまったあたし。
次々と乗り込んできた人たちが、「降りないんですか?」と不思議そうに声をかける。
お、降ります……。
降りますけど……なな、なんでッ?
急かされるようにエレベーターを飛び降りた。
慌てて英司の姿を探しても、もうどこにも見当たらなくて。
耳元を掠めた、英司のささやき声がずっと体中にこびりついてるようだった。