シュガー&スパイス
菜帆の事情
「……あれ、菜帆?」
突然呼び止められて、パッと振り返る。
……あ。
土曜日、いつもにまして賑わっている駅のロータリー。
忙しなく行きかう人の合間から見えるのは、「やっほ」なんて手を挙げた千秋の姿だった。
すぐに見つけてしまった自分に、なんだか複雑な気分。
「よく会うね。あれ、今日って仕事?」
目の前を通る人を器用によけてこちらに向かってくる。
千秋は私服姿のあたしを見て、首をかしげた。
人懐っこい笑顔を見せる彼から、慌てて落とす。
「……。ちょっと会社に忘れ物しちゃって……。今取りに行ってきたとこ。千秋は?休みなの?」
「俺はちょっと別の用事」
……別?
「ふーん。…………」
ちらりと見上げたあたしに、千秋は「ん?」と眉を上げた。
よく会うって言っても、ここんとこ全然会ってないじゃん。
たまにアパートの玄関先で顔合わすくらいで、どこかに出かけたわけでもないし。
って……あれ?
あたし、変。
「菜帆? なに黙ってんの?」
そう言って、体を折り曲げてあたしの目線に合わせた千秋。
いきなり覗きこまれて、心臓がビクリと跳ねた。
う……。
なんか調子狂う。