シュガー&スパイス
“結婚白紙になったんだ……。”
とは、母の喜びようを目の当たりにしてはっきり言えなかった。
「……はああ」
「どうした?」
がっくり落としていた顔をあげて、声のした方を見た。
「……千秋、ごめんね?こんなことになっちゃって……」
そう言ったあたしを見て、キョトンと首をかしげた千秋。
なんとも思ってないのかな……。
結局誤解はとけず、誕生日で連休をとってたのに合わせて実家に帰る事になったんだけど。
……成り行きで、千秋も一緒に行くことになってしまったんだ。
「ま、俺は婚約者で構わないけど?」
「……なに言ってんのよ、もう」
あっけらかんとそう言ってのける千秋を見て、またため息。
いいわけないじゃん。
だって、千秋とはそういう関係じゃないもん。
こんなこと、いいわけない。
でも……、言えなかった……。
あたしのバカ!
「はああ」
自己嫌悪。
お母さん達にはまたちゃんと説明しなくちゃ。
せめてもの救いは、千秋がいつになく楽しそうにしてるって事だけだ。
そっと窓の外に目をやる。
新幹線から見える景色は、いつの間にか懐かしいものにかわっていた。
どこまでも広がる田園風景に、胸がキュッと締め付けられる。
帰ってくるの、いつぶりだっけ……。
そんな事を考えながら、小さく息を吸い込んだ。
すっかり梅雨明けした空には、夏雲が穏やかに流れていた。