シュガー&スパイス


――ガラガラ


玄関を開けると、まるで待ち構えていたみたいに母が飛び出してきた。



「いらっしゃーい。
長旅御苦労さま、疲れたでしょ? ささ、上がってちょうだい」




手厚い歓迎っぷり。




「お邪魔します」



愛想のいい笑顔を浮かべて、さっさと上がりこむ千秋に、言いようのない不安に襲われた。


だ、大丈夫かな……。



居間に行くと、すでに長テーブルに座っていたお父さんが迎えてくれた。


手には泡のついたグラス。

……え、もう飲んでたの?


お父さんって結構人見知り。
だから、こうして誰かがお客に来るときは必ずと言っていいほど、お酒の力を借りていた。


案の定、顔赤い……。



入り口で立ち止まっていると、あたしの横をすり抜けて千秋が少し気まずそうにしていた父の前に座った。









「お伺いするのが遅くなって、申し訳ありませんでした。
はじめまして、篠宮千秋です」 


「……ああ、これは丁寧に。なにもないけど、今日はたくさん食べて」




……。




「菜帆! なにつっ立ってる、千秋くんにビール持ってこないか」

「え……あ、はい」




千秋って……、こういう挨拶、しっかりしてるんだな。



「ふふっ」



なんだか照れた様子のお父さんの顔がおかしくて、思わず笑ってしまった。



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