シュガー&スパイス
お酒の力を借りたお父さんは、すっかり千秋が気に入ったのか、やたらとお酒をすすめ、自分のこのうえ話を熱く語っている。
千秋を見ると、何杯も飲んでるはずなのにまったく酔ってる様子もなくて、笑顔でお父さんの話に相槌をうっていた。
……。
横目でそんな父を見ながら、あたしはあいたお皿を片づける。
台所に入ると、お母さんが大きなスイカを切っているところだった。
流しに置いたお皿に水を浸す。
蛇口を通して、冷たい水がサラサラと手の甲を流れ落ちた。
「……お父さん、千秋くんのこと気に入ってくれてよかったね」
「え?」
ハッと顔を上げる。
「菜帆達が来るまでは、まず反対するのが父親の役目だって意気込んでたんだけどね?」
「……そ、そうなんだ」
「いい人見つけたね。菜帆」
本当にうれしそうに言う母。
胸にツキンと痛みが走る。
「…………うん」
やわらかな笑みを浮かべる母から、逃げるように視線を外した。
流しっぱなしの水をキュッと止める。
さっきまでサラサラ流れていた水は、手の甲を弾いてバラバラに逃げていった。