シュガー&スパイス
「……」
必死になって探していた言葉たちが、ストンと喉の奥へ落ちて行ってしまった。
月明かりに照らされた横顔。
吹き込んでくる海風が、濡れた千秋の髪を揺らす。
スラッとした首筋。
ドクンドクンって脈を打ってる筋が見えて。
「あー、なんかすっげぇ落ち着く。菜帆んちって民宿みたいだな」
彼が話すのに合わせて喉仏が上下した。
トクン
トクン
ザザーン
ザザーン
波の音と、心臓の音がまるで溶けあうようにリンクする。
ああ、なんだろ……この気持ち。
胸の奥が、ぎゅってなる、この気持ち。
「菜帆?」
「……」
ガラス玉みたいに、キラキラ揺れる瞳。
熟れた果実のように、濡れた唇。
最初会った時もそう思ったけど、千秋って妬けちゃうくらい色っぽいな……。
「……なにこれ。チューしろってコト?」
いきなりグイっと顔を寄せられ、やっと我に返る。
「……え、わ!」
「人の顔見てボーっとしすぎだし」
ぎゃ!っと大袈裟に身を引いたあたしを見て、ジロッと目を細めた千秋がため息をつきながら体を起こした。