シュガー&スパイス
「ちょっと話したいことがあって」
「えっ」
一応周りの目を気にしたのか場所を移動したあたしたち。
ここは人があまり来ない、廊下の奥。
大きな窓を背中に向けて、英司が振り返った。
今更なにを話すことが……。
「一方的に別れを言ったの、怒ってる?」
押し黙っていたあたしの顔を伺うように、英司が言った。
いきなり、確信つくっ?
そんな話はもうしたくないよぉ。
どーせ、好きな人が出来たとか、あたしの事遊びだったとか言うんでしょ?
「お……怒って、ません」
それだけ言うと、あたしはうつむいた。
彼はあたしの上司。
敬語、使わなくちゃ。
けじめ、つけなきゃ。
「……ちゃんと話も出来ないままで。菜帆に誤解されたままじゃダメだと思って」
「……」
“菜帆”って躊躇なく名前呼んじゃうんだ……。
「もういいですよ。 あたしほんとに平気です」
目の前の彼はすごく真剣に話そうとしてくれてる。
それなのに、あたしは「あは」なんて笑ってみたりして。
「……きゃっ」
その時、肩を強い力で掴まれた。