シュガー&スパイス
そのまま壁に追いやられて、英司の腕があたしを囲う。
えっ
な、なにっ?
固まっていると、懐かしいあの香りに包まれた。
煙草とコーヒーの
大好きだった英司の匂い。
あの頃が蘇ってきて、目まいがしそうだった。
「あのっ……」
「もう、そんな敬語使うんだ」
じっと見下ろされて
行き場をなくした視線がおろおろ落ちていく。
それでも英司は、さらに距離を詰めるように、そっと耳元で囁いた。
「……菜帆はもう、俺を諦めた?」
え?
体の奥から絞り出すような
そんな切ない声が鼓膜をくすぐる。
諦めた?
諦めたって……
耳を疑うような言葉に、英司を見上げた。
窓から差し込んでいた太陽の光が、急に影を落とす。
見つめあったまま
あたしは彼から目をそらすことが出来ずにいた。
長い睫が揺れる。
壁をついていた手が、頬を撫でると
英司は小さく息を吸い込んだ。
「…………菜帆、本当は俺……」