シュガー&スパイス
いつも余裕たっぷりだった英司
その彼が切なそうに顔を歪めて、あたしを見下ろしている。
本当は……
本当はなんなの?
頬を撫でていた指が、耳に触れ、顎のラインを滑る。
近づいてくる英司の顔。
そして、唇に、息がかかる。
えっ
キ、キスするのっ?
「……やっ……」
――……ピリリリ!
え、携帯?
ぎゅっとつぶっていた目を開ける。
あたし……じゃない。
とすると、
ピリリリ ピリリリ
「…………」
英司は何か言いたそうにあたしを見つめてから、ようやく背広の中からやかましく呼び出す携帯を取り出した。
相手を確認すると、すごく不機嫌な顔になる。
「ごめん、もう行く。日を改めて話そう。それじゃ」
「……えっ、あ……」
英司はそう言うと、あたしの言葉を待たずに行ってしまった。
その間も携帯の呼び出し音はけたたましく鳴っていて。
英司の姿が見えなくなるまで聞こえていた。