シュガー&スパイス
――次の日。
出勤したあたしは、たくさんの社員と一緒にエレベーターを待っていた。
眠そうにあくびをしてる人。
新聞片手に難しい顔をしてる人。
自分のデスクに着くまでは、自由の時間。
それぞれに言葉を交わし、笑い声も聞こえる。
だいたいそれは、耳に入ってこないんだけど、今日のは違った。
「とうとう結婚するって。正式に発表したみたいよ?」
「ええ? それほんと? なんかショック」
「でもあの二人、前から付き合ってたって噂だったよね」
「ああ、そう言えば」
後ろで待つ、女子社員が声をひそめて何か言ってる。
社内で……かな。
以前のあたしなら、その手の話題には敏感になってた。
英司との関係は、誰にも内緒だったから。
でも、今は……。
と、そこまで考えて、昨日のアレを思い出す。
まるで忘れさせないように、あたしを襲ってくる
英司の声。
ああ、もう!
こんな曖昧な関係……やだ。
今日こそちゃんと話をしなきゃ
あとでメールしてみよう。
「相手ってあの社長令嬢でしょ?
さすがだよね、佐伯さん」
……え?