シュガー&スパイス

――次の日。


出勤したあたしは、たくさんの社員と一緒にエレベーターを待っていた。


眠そうにあくびをしてる人。
新聞片手に難しい顔をしてる人。

自分のデスクに着くまでは、自由の時間。


それぞれに言葉を交わし、笑い声も聞こえる。
だいたいそれは、耳に入ってこないんだけど、今日のは違った。




「とうとう結婚するって。正式に発表したみたいよ?」

「ええ? それほんと? なんかショック」

「でもあの二人、前から付き合ってたって噂だったよね」

「ああ、そう言えば」



後ろで待つ、女子社員が声をひそめて何か言ってる。



社内で……かな。

以前のあたしなら、その手の話題には敏感になってた。



英司との関係は、誰にも内緒だったから。

でも、今は……。



と、そこまで考えて、昨日のアレを思い出す。



まるで忘れさせないように、あたしを襲ってくる
英司の声。


ああ、もう!
こんな曖昧な関係……やだ。





今日こそちゃんと話をしなきゃ

あとでメールしてみよう。








「相手ってあの社長令嬢でしょ?

さすがだよね、佐伯さん」






……え?

< 154 / 354 >

この作品をシェア

pagetop