シュガー&スパイス
慌ただしく出てきた彼は、あたし達の前に立つと丁寧に頭を下げた。
わっ
イケメンっ
真黒な短髪。
シャープな輪郭に、きりっとした目鼻立ち。
年は……30代前後?
このお屋敷にピッタリな純日本顔の彼は、パッと顔を上げると
またまた想像通りの爽やかな笑顔を零してこう言った。
「おかえりなさいませ。 千秋坊ちゃま」
えっ
ぼ、ぼっちゃま?
千秋、坊ちゃまなの?
目を丸くして見上げたあたしに気づいた千秋が、少し頬を染めてうざったそうにした。
「こちらが、仲岡、菜帆様。ですね?」
「え? あ、はい……あの……」
なんであたしの事……。
てゆか、なんでそんな嬉しそうにあたしを見てるの?
じっと見つめられ、落ち着かない気分になる。
「…………。
ミツル、準備出来てんだろうな」
「はい。 用意してございます。では早速こちらに」
にこにことそう言って、ミツルさんは見惚れちゃうような流れる動きで、あたし達を招き入れた。
「……なにニヤついてんの」
「え? あたし別にニヤついてなんかないよ?」
ジロリ
って、ものすごく不機嫌な顔で睨まれても、今全然怖くないんですけど。
世の中って、わからない。
最初会った時は、ホストって思うような軽い感じだったのに。
実は違って、しかも、その千秋が……。
お坊ちゃまって!
それにしても、ほんとにすごいおうち……。
部屋の中にいくつも散りばめられてる装飾品の数々に、思わず目を奪われた。
「仲岡様はこちらへ」
「え、あたしですか?」
長い廊下を歩かされ、たどり着いた一つの部屋。
そこでミツルさんはあたしを促した。