シュガー&スパイス
大きな口を開けて待っているホテルが、未知の世界への入り口に見えてくる。
思わず立ち止ると、数歩行った先で千秋が振り返った。
「菜帆?」
「ちゃんと説明してよ。じゃなきゃあたし、ここから動かない」
――…動かない。
……じゃなくて“動けない”って方が正しいけど……。
何の説明もなしにこんな格好させられて
こんな場所まで連れてこられたんだから、それくらいの意地悪言ってもいいでしょ?
ポケットに入れていた手を出して、千秋がこちらに向かって来る。
うつむいてた視界に影が落ちて、上目づかいで見上げた。
「……ごめん。だよな、うん。俺が悪かった。……怒んないで?」
そう言って、そっとあたしの手首を握り締めた千秋が。
小首を傾げて、まるで子供のように見上げるもんだから、心臓が勝手にドキっと跳ねた。
ううっ
なによぉお
それから少しだけ隅に移動して、あたしの隣に並んだ千秋は周りを見渡しながら口を開いた。