シュガー&スパイス
抱きしめられた時
『えー……みなさん!
本日は、我が社の、創立記念式典にご参加くださり、誠にありがとうございます』
中央の紅白がたくさんついたマイクスタンドの前で、さっきの夏目さんと同年代の男の人が、声高らかに演説を始めた。
それを合図に、会場内が、シンと静まり、それから拍手が起こる。
この人が……社長?
って事は、千秋のお父さん、かな?
千秋から一歩引いた場所で、チラリとその姿を確認する。
口ひげが印象的で、蝶ネクタイをした彼は、ちょっと小太り。
似てないなー……。
身振り手振り、両手を大きく使って話すそれはとても面白くて、あたしだけじゃなくて会場内を一気に惹きつける。
隣に立つ千秋をそっと覗きこむと、背筋をピンと伸ばしまっすぐに前を見据えるその瞳は、なんだか誇らしげに見えた。
『我が社が、ここまで成長できたのは、他でもない!みなさんのおかげです。
これからも、新しい企業を立ち上げていくのに、是非そのお力添えを、よろしくお願いします。
えー、では、挨拶はこの辺にして……まだまだ夜はこれからです。
みなさん!
最後まで楽しんでいってください』
社長の挨拶が終わると、壇上に上がっていた人たちが次々と散らばっていく。
あたし達もも彼らに混ざって、降りようとしていた、その時。
「これはこれは。千秋君じゃないか、どうして今日は君がここに?」
え?
振り向くと、同じ20代くらいの男の人が数人。
腕組みをして、ニヤニヤとこちらを眺めていた。
そう言えばこの人たちも、同じ列に並んでたよね……。
って、ことは同じ親類の人……。
「ああ、そうだ。
今日は直哉君がいないからか。それで君が呼ばれたんだ。そうでなきゃ、ここへ来る資格、ないもんなぁ」
そう言って、お互いの顔を見合って、クスクス笑う。
なにこれ、やな感じ。
眉間にグッとシワを寄せると、同じように振り返っていた千秋が、小さく笑ったのがわかった。