シュガー&スパイス
「“コウ”くんって……呼ばれてたのはどうして?」
「…………」
一瞬目を丸くした千秋。
それから、「あー……ま、いっか」とブツブツ言ってあたしをチラリと見た。
「言ったろ? 俺、親父のコネでバーテンダーしてたって」
「うん」
バーテンダーって、カクテル作る人だよね……。
千秋のそんな姿を思わず思い浮かべる。
シェーカーを振って、それをグラスに注ぐ千秋。
似合いすぎる……。
千秋の作ったお酒、飲んでみたいな……、なんて。
あ。
もしかして、前に飲みに行った時、カクテル作ってる人を目で追ってたのって、それが関係してたのかな。
「親父には言ってなくて働かせてもらってたんだ。
数か月だけって条件もあったし、店のマスターも偽名オッケーな人でさ」
「お父さんにバレないために、偽名使ってたって事?」
「んー……まあ、そんなとこ」
そう言って、千秋はキュッと結ばれていたネクタイをグイグイと緩めた。
その仕草に目を奪われながら、思い出していた。
『コウく~ん』と猫撫で声で、彼に駆け寄る女の子たちの姿を……。
……む。
だとすると、あの子たちは、お店のお客さんだったわけね?
お客さんなのに、抱いちゃうんだ……。
イライラ
光沢のあるネクタイが緩められ、伸びたそれを胸のポケットに押し込む千秋を見てると、なんか無性に腹が立ってきた。
イライラ
「千秋じゃなくて、コウくんなら自由だもんね?」
わ!
なんか今の語尾にすっごく棘が……!
別に偽名だろうが、なんだろうがあたしには……。
さぞかし千秋も、びっくりしたでしょ。
千秋が自分に言い寄って来た子をどう扱おうが、自由なのに。
あたしが、なんかさも気に入らないみたいな言い方で……
「……もう1回」
「は?」
バッと顔を上げると、キラキラと目を輝かせた千秋の顔。
びくっ!
なっ なっ なに?