シュガー&スパイス
怖い……。
何もないけど、絶対ないとも言えない……。
……微妙。
パンフレットから倫子を覗いてみる。
「あたしに隠し事出来ると思ってるの?」
うっ
思わずビクっとなって、またパンフレットで顔を隠した。
だから、怖いってば。
クリっとした大きな瞳、そろった前髪。
丸いシルエットのボブの、かわいい倫子。
だからなの?
凄むと、ものすごーく……こわ…………
「こら!」
「はいっ!」
顔を隠していたパンフレットは倫子が奪い取り、またまたジロリと睨まれる。
蛇に睨まれたカエル、とはこの事だ。
ハハハと笑って、汗っかきのメロンソーダを手にしたその時だった。
「あれ?……あなた……」
視界の隅に、真っ白なフリルのワンピース。
カモシカのようにすらっとした綺麗な足。
上品なピンヒールが、あたし達のテーブルの前で立ち止った。
「偶然ね、ランチ? ほら、私の事覚えてないかな?」
え?
抜けるような透明な声。
それはあきらかに、あたしに向けられていた。
香水の甘い香りに包まれて、誘われるように顔を上げた。
「久しぶり……ってほどでもないか」
「あ……友里香さん?」
「ふふっ。こんにちは」
そう、そこにいたのは。
あたしに会えて心底嬉しそうに笑う、友里香さんの姿だった。