シュガー&スパイス


――――――…
―――…



ピピピピ



「見せて」



「ほら」と手を出したあたしを見て、ソファに座った千秋が渋々体温計を差し出した。



「38度9分って……すごい熱じゃない」

「……大した事ねぇし」



なに強がってんの。
ここ、強がるとこじゃないのに。


ため息をついたあたしを見て、千秋はクシャリと髪をかきあげた。



「ちゃんと寝るし、大丈夫だって」

「薬はあるの?」

「ねぇけど、寝れば治るから」

「…………」



男の人の独り暮らしって、こんなもんなのかな……。


よし。
ここは、お隣のよしみで。


「待ってて。今薬持ってくる。ついでに何か食べる物作ってくるから」

「はあ? いいよ、いらねーって」



そう言ったあたしに心底驚いたように千秋が身を起こした。


……ム。

だからなんでそんなに意地張ってんの?



「いいから、病人は黙って言う事聞く!」

「……」



不服そうに唇を尖らせた千秋は、そのままソファに力なく倒れこんだ。

そんな彼を横目に、あたしはさっさと千秋の部屋をあとにした。










「ほら、アーン」

「…………」



熱々の卵粥を差し出され、千秋はそのスプーンを見つめたまま黙り込む。

あれ?



「……自分で食えます」


……。

あ、そっか。そうだよね、ハハハ。

ちょっとでしゃばりすぎちゃったかな。

反省反省。

急に恥ずかしくなって、持っていたお椀と箸を千秋に渡すと、そそくさと立ち上がった。



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