シュガー&スパイス
そしてまた目を閉じた千秋は、独り言のように呟いた。
「……もし、かーさんが生きてたらこんなふうに看病してくれたんかなぁ」
あ……そっか。
千秋には、お母さんの記憶がないんだ……。
千秋のその言葉に「うん」って相槌打つことしか出来ない自分が、すごく歯痒くて。
もっと気のきいたセリフ言ってあげたいのに
何を言ってもうわべだけの気がして
あたしはただ、笑顔を返す事しか出来なかった。
でもそんな無力なあたしに、
千秋は安心したように、すごく優しく笑って……
そして
「……菜帆がいてくれてよかった」
って照れくさそうに、そう言ったんだ。
なんだか泣きそうになった。
あたしはそれを誤魔化すように「大袈裟だなぁ」って、笑った。
そしてそのまま、千秋は深い眠りに落ちてしまった。
すぐにスースーって寝息が聞こえてきて、そっとその顔を覗き込む。
熱のせいで
少し荒い息遣い。
紅潮した頬。
薄く開いた唇が濡れていて
窓から差し込む街灯の光が、露になった首筋や腕を艶かしく映していた。
勝手に心臓がドキドキと鼓動を刻む。
握られた手に、じわりと汗が滲み始めた。