シュガー&スパイス
ん?
「……え、おふろ?」
「とにかく! 今日は真っ直ぐ家に帰ること! なにも考えず! 寝る!」
首を傾げたあたしに、倫子はそう念を押した。
丸いおぼんに湯呑を乗せた倫子は、1人でさっさと出て行ってしまった。
あたしはなぜかその場から動き出せずに、消えた倫子の背中を見送った。
「……」
すれ違い?
えーーーっと。
なんのすれ違い?
「まっすぐ帰れー、なんて……」
今日は英司と約束しちゃってるしなぁ……。
ごめん、倫子。
信じてないわけじゃないんだけど、英司に会いたいの。
ようやく打ち込みが終わった企画書のコピーを持って、あたしはエレベーターを待っていた。
パソコンの画面を睨んでたから、目が疲れたな……。
小さく溜息を零して、あたしはそっと瞼を閉じた。
と、その時。
「仲岡さん、気分でも悪い?」
「え?」
突然、誰かに話しかけられて慌てて顔を上げた。
そこにいたのは……。