シュガー&スパイス
あたし達が降りると、タクシーはさっさと来た道を引き返してしまった。
真っ赤なテールランプは、すぐに森の中に消えて見えなくなった。
「ここに泊まるの? マジ?」
「これが別荘……」
それは。
まるで地中海をイメージさせるような真っ白な壁。
海を正面にしている3階建ての別荘は、ほんとにリゾートホテルのようだ。
なんか、別荘っていっても、勝手なイメージでコテージ的なものかと思ってた。
けど、全然違う……。
さすが社長令嬢……規模が違います。
呆気にとられていると、これまた別に驚いた様子もない千秋は、さっさとインターフォンを鳴らす。
すると、すぐさま自動で門が開いた。
す、すご……。
少し先を行く千秋は、固まってるあたし達に気付いて振り返った。
「なにしてんの?行かないの?」
い、いや……行くけどもっ
お互いに目配せをして、慌てて千秋の後を追うあたし達。
こんなとこにタダで泊めてもらえるの?
なんて、お金の事を考えていた。
でも、そんなことは、別荘に入った瞬間吹っ飛んだ。
両開きの玄関を開けて、中に入るとそこはちょっとしたホテルのロビーのようで。
いくつも並べられた、アジアンテイストの家具があたし達を迎えてくれた。
そして、そのフロアにいくつも並べられたソファにはすでに先客がいた。
あたし達が入って来たのに気が付いて、その人も振り返る。
目が合った瞬間、持っていた鞄を落としそうになってしまった。
「うそ……」
小さく声が零れた。
だって……。
だって、そこには…………。
あたしと同じように目を丸くした英司の姿があったから。
時間が止まったかと思った。