シュガー&スパイス

引きずられるように歩かされる。

本当に怖い時って、声が出ない。
そんなことを頭の片隅で考えて、男の手を引く。


「どこに行くんですか!」


震える声を相手に悟られないように、きっぱりと言った。

でもサトシはあたしの質問にこたえる気はないようで、ズンズンと進み、とうとう敷地を出ようとしていた。


「離してくださいっ」

「すぐにすむよ。 大人しくしてれば」



すむ!!?
やっぱりそーいうコトしようとしてる?

冗談じゃないっ!


「離せっ、離せー!」

「チッ、うるせぇな。ちょっと黙ってろ!」

「きゃッ」


バチン

鈍い音と一緒に、頬がジンと熱を持つ。

照明のない薄暗い森の中に差し掛かって、振り返った男の顔が歪に映る。



ほんとにヤバそう……

あんなに……あんなに隙見せるなって千秋に言われてたのに……。
飲み過ぎるなって、そう言われてたのに……。


ブワッと一気に視界がにじむ。

男はあたしを木陰に引きづり込んで、力任せに地面に押し倒した。


「やぁ……やだ……やだああああ!」


怖い……
怖い怖い怖いッ


草の青臭い匂いが鼻につく。

ギュって抑え込まれた手首が痛い。

どうして……どうして……


滲んだ視界。
見えるのは、木々の間から見える漆黒の空。
今日はずっと晴れている。
なのに、その空には星はひとつもみあたらない。

あたしの目には何も映らない。


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