シュガー&スパイス
償いのキス
「菜帆、ほんとにごめんね。あたしが菜帆をひとりにしたから……」
倫子が泣きながらあたしに頭を下げた。
「や、やめてよ。なにもなかったんだから。あたし大丈夫だよ」
「でも、怖かったでしょ?怖い思いしたの、あたしのせいだもん」
倫子は涙で歪んだその顔をガバッと両手で覆った。
あれからあたし達はすぐに部屋に戻った。
窓の外からは、いまだに賑やかな声が聞こえてくる。
倫子が子供みたいに泣くもんだから、なんだかおかしくなってしまった。
「ふふ」
「菜帆の気が変になったぁ……あたしのせいだわぁ」
「え、ちょ、失礼な。倫子があんまり泣くから。ほんとに大丈夫だって。そりゃ怖かったけど、美味しいお酒に引っかかったあたしも、自業自得なんだから。ね?」
よしよし。
と、やわらかな倫子のボブを撫でる。
なだめるように覗き込んだあたしを、大粒の涙で濡れた瞳で見上げながら、倫子は少しだけ笑った。
あの時倫子、トイレに行ってたんだって。
あたし、全然気づかなかった。
ダメだな、意識がはっきりしないほど飲んだら。
いつもそう。
飲み過ぎて、もうお酒はこりごり!って思うけど、しばらくするとまた飲んでしまう。
はあ……。
倫子には気付かれないように、小さくため息をついた。