シュガー&スパイス
その時、勢いよく部屋の扉が開いた。
ビクッとあたしも倫子も小さく飛び跳ねて、顔を上げた。
「はあっ、はあっ……菜帆……」
そこには、血相を変えた千秋がいて、あたしを見るなり力なく呟いた。
え、どうしたの?
キョトンとしてるあたしに何か言いたそうにした千秋の唇は、もごもご動いてすぐに閉じてしまった。
俯いた千秋。
??
「あ、あたしお風呂借りてこようかな」
「倫子?」
いきなり胸の前でパチンと手を合わせた倫子は、着替えを持たずにそそくさと部屋を出て行ってしまった。
……倫子、わざとすぎるでしょ……。
小さくため息をつくと俯いてる千秋に視線を戻す。
「……千秋?」
そっと声をかけると、その体がビクッと震えた。
なんだかいつもより小さく見えるその姿に、胸が切なくなる。
千秋の言いたい事はわかる。
怒ってるんでしょ?
でも、それも通り越して呆れてるんでしょ?
あたしが、千秋の言いつけ守らなかったから。
「ごめんなさい……」
「え?」
自然とこの言葉が零れた。
そんなあたしに、千秋が目を見張った。
「あたし、ダメだね。ほんと千秋の言うとおり隙ありすぎ……。あはは。でもね?なにもされてないよ。ほんと、ちょっとだけ押し倒されたりしたけど、でも大丈夫だった」
ペラペラと勝手に口から言葉が飛び出してくる。
こんなこと、なんで千秋に言ってるのか自分でもわからない。
千秋の顔を見るなり、英司の顔も浮かんだから……なのかもしれない。