シュガー&スパイス

目の前の千秋は、何を考えているのかわからない。
あたしを見ているようで、見ていない虚ろな瞳。
どこか遠くに行ってしまったみたいだ。

どこへ?

あたしはそんな彼に背を向けて、窓から海を眺めた。
静かな夜。
凪いでいる水面には、大きな満月が写りこんでいた。



「あっ!でもね? クリスタルってゆー美味しいシャンパン飲んだよ?すっごく美味しかったぁ。でも、そのせいで一歩間違えてれば危なかったんだけども。あはは……っ……」



突然背中に感じる体温。

あたしをすっぽりと包む甘いムスクの香り。

後ろから覆いかぶさった千秋は、そのままあたしの肩に顔を埋めた。
回された腕が肩をギュッと抱く。

饒舌だったあたしの言葉は一気に勢いを失い、時を止めた。


「……笑うなよ」


え?

一層力のこもった腕にそっと触れる。

千秋の前髪が頬に触れてくすぐったい。


「……」

「……ごめん」


苦しそうなその声に、何も言えなくなってしまった。

いつもの千秋からは想像もできないほど、その声色に力がない。
でも、耳にかかるその吐息はあたしの身体を反応させるのに十分すぎた。



「……ち、あき……」


あたし。

さっきあんなことがあったばかりなのに、最低。
胸がギュッとして痛い。
千秋に触れられたところから溶けちゃいそう。



英司でもない。


あたしは、千秋に反応してる。

あたしの身体は、心より正直だ。


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