シュガー&スパイス


ゴクゴク


豪快にビールを流し込む、その喉仏が上下に揺れる。


す、すごい……。


「はあ、うまい。なんだ、飲まないのか?」


はっ

見てる場合じゃない。

って、見ないなんて無理だよ。
こんな英司初めて見るんだもん。

いつもは高層ビルのレストランとか、それにイタリアンとか。

だからこんな居酒屋の英司は初めてで、物珍しいというか……。


「いつも菜帆はこーいうことで飲んでたんだな」

「えっ」


唐突の言葉に、飲みかけていたビールを止めて顔を上げた。


「俺とは来たことなかったけど」

「……」


知ってたんだ……。

英司はネクタイをグイグイっと緩めて、それが汚れないように胸ポケットにしまった。


こんなふうに、砕けた英司をあまり見た事ない。


「はい、軟骨から揚げね~」



運ばれてきた軟唐は、食欲をそそる。
あたしは一口ビールを口に運び、軟唐に手を伸ばした。



賑やかな店内は、ひっきりなしに人の出入りがある。
あたし達が立ってるのは、店の窓際の奥だから人通りは気にならなかった。

それでも店のドアが開くたびに、湿気を含んだ空気が、入り込んできた。


雨……降ってきちゃったかな……。


2杯目のビールを注文する英司に気付き、あたしは顔を上げる。



「ね、ねえ! まだ会社に戻るんでしょ?そんなに飲んで大丈夫?」

「ああ。まあもう仕事は終わってるからな。忘れ物、取りに行くだけだよ。それがなかったらこのまま帰る事なんだが」


そう……なんだ。


「菜帆は?まだ飲むだろ?」

「え?あ、んーん。お腹減ってるから食べる方にする」


メニュー表を手渡そうとする英司を断って、あたしは目の前に並ぶ料理に箸を運んだ。


これ以上、酔っぱらうわけにはいかない。
だって、せっかく英司とこうして話が出来るんだもん


ちゃんと、自分の気持ちを言わなくちゃ……。

あたしは自分に言い聞かせるように、残っていた少しのビールを飲み干しておじちゃんにウーロン茶を頼んだ。


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