シュガー&スパイス


茫然と立ち尽くすあたしを、通り過ぎる人達が、好奇の視線を向ける。
傘の向こう側から、チラリと視線を感じる。


早く帰らなくちゃ……。

アスファルトに食い込んでいるパンプスを、なんとか引きはがそうとした時だった。



「……!」



……え?

鼓膜を揺るがす雨音をぬって、何か聞こえた気がして足を止めた。



――その時。

体を打ち付けていた雨が止む。



……振り返ると。




「……英司?」

「…………」



眉間にシワをよせ、英司は下唇を噛みしめた。
そして……。


ハラリと傘が地面に転がって、あたしは強く、強く抱きすくめられていた。




「……」

「……」


なに?

なんで、英司が……。


降りしきる雨の中、暗くなった世界を嘆くように咲く、色とりどりの花達。

そこに、零れたブルーの傘がゆらゆら揺れている。


息も出来ないくらいの力に、あたしの視界がジワリとにじむ。
それは、この雨のせいなのか。
それとも、やっぱり涙なのかな……。




バラバラバラ

雨音に混じって、小さな声が耳元をかすめた。



「……菜帆、幸せになれよ?」



切なくて、苦しくて。

あたしは、何度も何度もうなずいた。



「………ん……うん……英司に負けないくらい幸せになるもん」

「……はは。期待してる」



そう言って、もう一度その腕にギュッと力を込めた英司は、そっとあたしとの距離をとった。


ふたりとも、ずぶ濡れだ。


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