シュガー&スパイス
……あたし、何考えてるの。
カツンとヒールが音を立てて止まったのは。
いつか見た、優しい木の枠で縁取られたモザイクガラスの扉。
千秋が働いてる美容室だ。
大きなガラス窓の向こう側で、鏡に向き合う女の人が数人見えた。
友里香さんたちの言葉に乗せられて、こんなとこまで来てしまった……。
ど、どうしよう。
やっぱり帰ろうかな……
そうだよ、いきなり来ても困るだろうし!
でもでも。
そろそろ髪切りたいなーって……思ってたんだよね。
よし。
何でもない顔して。
「……」
む、無理~!
やめた。
ヘタレって罵られてもいい。
だって、無理なものは無理なんだもん。
……はあ。
帰ろう……。
ガクッと肩を落として、来た道を戻ろうとしたあたしを、誰かが呼び止めた。
「あの!」
え?
振り返ると、モザイク扉から、ひょっこりと顔を出している女の子。
キョトンとしていると、その子はタタタと歩み寄ってきた。
「お店見てくれてましたよね? 今ならすぐにご案内できますよ」
そう言って、人懐っこい笑顔で言った彼女の短いキャラメルミルクティー色の髪がふわりと揺れた。
―――カラン
そしてあたしは、誘われるように、美容室に足を進めた。