シュガー&スパイス
タオルを持った千秋の手が不意に肩に触れる。
椅子に体重がかかって、ギシって小さく音を上げた。
「――違う。ナニされたいの?」
「……」
固まったあたしの顔に、そっと唇を寄せて、イジワルく笑う。
薄暗い照明の中、その顔が妖艶に浮かび上がる。
えっえっ……
「……」
「……」
聞こえるのは、耳に馴染むジャズ。
そして、壁一枚隔てた向こう側で、人の動く気配。
話し声。
ち、違う……。
こんな事したくてきたんじゃない。
だ、だって……。
「だって! きゅ、急に思ったんだもん。髪伸びたって思ったから。
それに、それに……最近千秋、家にも帰ってないみたいだし、もしかしたら死んじゃってんじゃないかって……だから……」
って、わあ。
あたし、どもりすぎだよぉ。
これじゃあ意識してるってバレバレ。
いや、もうバレちゃってるのかもだけど、さらに墓穴掘ってどうすのぉ
キョトンと固まった千秋は、目をパチクリさせた。
うっ……引いてる引いてる。
恥ずかしくて、あたしの方が死ぬ……。
上気しそうな顔を背け、ギュッと目を閉じた。
そして。
返ってきた千秋の言葉に、あたしはさらに打ちのめされた。
「っはは。なーんだ」
……なぁんだ?
なんだってなに?
その適当な感じなんなの?
早く帰りたい……。